福祉はぐくみ企業年金基金は、確定拠出年金(企業型DC)より優秀な退職金制度なのか

退職金制度を準備したい。

社員の退職金だけでなく、役員の退職金も考えたい。中小企業退職金共済(以下、中退共)か、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)か。話題の「はぐくみ基金」はどうだろうか。

どの制度も似ているようで、特徴が異なります。効率よく準備するには、どの制度がいいのでしょうか。

さすけん

負担が少なく、
社員の満足度があがる制度がいいよね。

節税対策や福利厚生などで提案されることが多い「福祉はぐくみ企業年金基金」。2018年からはじまった退職金制度ですが、2022年4月時点で、導入件数738件と勢いのある退職金制度です。

はぐくみ基金の導入推進やその後のサポートは、株式会社ベター・プレイスが行っています。まだ代理店や取次店は、ないみたいですが、このまま導入件数、加入件数が伸びれば、増えていくと思います。

大きな特徴として、掛け金が、1,000円/月~お給料の20%(上限100万円)まで可能で、退職時だけでなく、休職時や育児・介護休業時にも給付が受け取れます。

この記事では福祉はぐくみ企業年金基金は、企業型DCより優秀な退職金制度なのかについて。参考になれば、幸いです。

福祉はぐくみ企業年金基金について

福祉はぐくみ企業年金基金(以下、はぐくみ基金)は、厚生労働省の許可を受けて設立した退職金制度です。
※厚生労働大臣認可番号:関基第 016408 号

確定給付年金のため、元本が確保される他、老後の生活資金の他に、休職・退職した時にも支給されるのが大きな特徴です。2020年時点で、約940万人が利用している年金制度です。

導入条件は、厚生年金適用事業所であること(2年連続で赤字、反社会的勢力ではない)です。ただ、役員1人のみのような小規模企業への導入は難しいようです。

さすけん

特に悪そうな制度じゃないけどな。

DCコンサル
タント®
祖父江仁美

確定拠出年金と違って、

運用も大手生命保険会社が
行ってくれるのです。

特徴だけみると安心して加入できそうな制度ですが、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)より優秀なのかメリットや留意点を説明します。

はぐくみ基金を導入する企業のメリット➀選択制確定給付企業年金プランであること

退職金制度は、導入する時にコストがかかるものが多いです。

はぐくみ基金もその1つで、導入時にコストがかかります。退職金制度は、普段のお給料とは別に、退職金の財源を用意しないといけません。よほど利益が出ていないと小さな会社が導入するのは、ハードルが高いです。

でも、はぐくみ基金を導入する時は「退職金前払い制度」及び「選択制」という仕組みを活用した「選択制確定給付企業年金」です。この制度を利用することで、退職金を積み立てていくことができます。

はぐくみ基金を導入する企業のメリット②福利厚生の導入企業とPRできること

企業年金の多くは、老後(60歳~70歳)まで受給することができません。

でも、はぐくみ基金は、以下の場合でも受け取ることができます。

  • 途中退職した
  • 病気などで休職した
  • 育児や介護で休業を余儀なくされた

はぐくみ基金の特徴を打ち出すことで、社員に安心を与えることができ、社員定着につながります。

はぐくみ基金を導入する企業のメリット③大手生命保険会社が運用を担当

はぐくみ基金の運用は、日本生命や明治安田生命といった国内大手生命保険会社が、運用を担当しています。運用も国債などがほとんどで、為替の影響を受けにくく、元本割れするといったリスクを避けることができます。

仮に生命保険会社が破綻したとしても、生命保険契約者保護機構が90%、補償してくれます。
※10%は企業負担です。

はぐくみ基金を導入する企業のメリット④分別管理のため積立額は全額補償される

導入後、万が一倒産したとしても、はぐくみ基金は、会社の財産とは分別管理になります。なので、没収されるリスクはありません。積立て額や利息は、全額補償されます。

さすけん

転職時に手続きを忘れて、
自動移換されることもなさそうだね。

DCコンサル
タント®
祖父江仁美

企業型DCをすでに導入している場合、
はぐくみ基金との併用も可能です。

ただ、選択制企業型DCの場合、
掛け金上限が、27500/月になります。



社員にとってのメリットも少しだけ。

はぐくみ基金に加入した社員のメリット

社員が、はぐくみ基金に加入したメリットとしては、大きく4つです。

  • 元本が確保される
  • 退職時や育児・介護休業時にも給付を受けることができる
  • 選択制の場合、掛け金は、所得控除
  • 掛け金は、給料の20%(最大100万円)まで設定することが可能

です。

加入対象者は、社員だけでなく経営者や役員も可能です。

育児・介護等で休業する際は、これまで積立てた分を全額受け取って、復帰する際は、新たに加入します。掛け金が、給料の20%(最大100万円)までOKなのは、面白いですね。
※ただし、誰も100万円も掛け金を積み立てている人は、いないそうです。(独自調べ2023)

福祉はぐくみ企業年金基金の留意点

ここからは、中小企業に企業型DCを導入している私からみた留意点です。

一番の留意点だと思うことは、はぐくみ基金は「確定給付企業年金(DB)」だということです。

  • 企業型確定拠出年金(DC)・・・将来の年金額が運用成果による
  • 確定給付企業年金(DB)・・・将来の給付額(元本)保証される


企業型DBは、元本が保証されるので、安心安全のイメージがありますが、将来の給付が決まっているので、運用成果は期待できません。そして元本を下回るようだったら、企業が補填しないといけなくなります。

元本保証商品なので、加入者からしたら、掛け金を下回ることはなくても、株式などの金融商品では運用することが難しいです。

さすけん

あまり増えないのか。

利息が受け取れる分、
貯金よりいいくらいかな。

利回りは、どのくらい期待できるのかな。

DCコンサル
タント®
祖父江仁美

大手保険会社が、
国債などで代わりに運用するので、
1%出ればいいところでしょうか。

導入しやすい「選択制」にしても、
手数料もかかるので、
制度を維持するのは、大変ですよ。


またはぐくみ基金は、運営手数料が高いです。他の退職金制度(中退共や企業型DCなど)と併用する場合、両方の制度で手数料が発生するため、併用する際の費用も考えて導入を検討してください。

以下、その他の留意点です。

はぐくみ基金の留意点➀歴史が浅い

制度がはじまったのが、2018年4月からです。他の退職金制度と比べると歴史がまだ浅く、この先どうなるかわかりません。

基金が解散しても、積立て額や利息が保証されているとはいえ、まだ導入を提案するプランナーは、少ないと思います。税理士さんの中には、節税商品としては魅力が高いため提案する人もいますが、長期的な視点からまだ様子を見た方がよさそうです。

はぐくみ基金の留意点②社員に制度が浸透しにくい

企業型DCと違い、社員への制度説明(書類やり取りのみ)や投資教育がないため、当たり前に用意されているものと思われがちです。

元本保証とはいえ、大きな運用成果は得られない可能性が高いため、将来の年金の不足分は、自助努力で他の方法(NISAやiDeCoなど)を活用して運用しないといけません。


はぐくみ基金は、掛け金を1,000円/月~給料の20%(最大100万円まで)を積立てることが可能です。でも、一度はじめてしまうと止めることができません。1,000円/月は、最低でも積立てていくことになります。

掛け金が1,000円/月の人が何人かいて、手数料やその他経費の方が高くなっているなんてことも考えられます。

こういった加入時やその後のこと、留意点などが、社員に浸透しにくいため、企業の導入意図が伝わりにくく、加入希望者が増えない可能性もあります。

はぐくみ基金の留意点③手数料が高い

退職金制度を企業に導入する際は、導入コストがかかります。

はぐくみ基金の手数料(事務費)ですが、企業が負担することになります。

加入者人数 事務費月額(1名あたり)
1~500人以下の部分490円
501人以上1,000人以下の部分450円
1,001人以上の部分410円

SBI証券のiDeCoの場合、個人負担は171円/月、企業型DCの場合、110円/月+事務手数料くらいです。全額損金で扱えるとはいえ、加入者が増えれば増えるほど、企業負担は大きくなります。

はぐくみ基金の留意点③併用すると他の退職金制度の掛け金上限が減る

退職金制度の併用は、その分コストがかかります。

企業型DCとはぐくみ基金を併用する場合は、はぐくみ基金に加入したら、企業型DCの掛け金上限が、最大55,000円/月だったものが、27,500円/月まで下がります。

企業型DCに加入している社員にとっては、デメリットとなります。

はぐくみ基金の留意点④「選択制」の場合、将来の公的年金や給付が減る可能性がある

積立てたお金は、給料ではなく前払いという位置づけになるため、その分の社会保険や税金の負担が減る一方で、社会保険の等級が下がることにより、将来の給付(産休育休手当、失業給付、公的年金など)が減る可能性があります。

例えば、1年間育休を取得した場合

  • 出産手当金
  • 育児介護給付

転職活動するも新しい職場が見つからず、失業状態となった場合

  • 失業手当

などが支給されますが、健康保険・雇用保険の保険料が下がる(等級が下がる)ことで、この支給額に影響が出る可能性があります。

はぐくみ基金は、企業型DCより優秀な退職金制度なのか まとめ

社員数101人以上 106万の壁 社会保険料の加入

はぐくみ基金のメリットや留意点をお伝えしてきました。

はぐくみ基金は、加入者の将来の生活資金を積み立てる福利厚生になります。資金に余裕があれば、企業の方から福利厚生費としてお金を上乗せしてあげるようなプランがオススメです。

もし選択制を導入するのであれば、絶対に節税目的で導入しないことです。

企業型DCにもいえることですが、社員に向けて説明する機会をつくり、労使合意の元で導入を検討してください。

はぐくみ基金は、企業型DCと比べ、運用成果は期待できません。導入費用だけでなく、加入後のシミュレーションなども比較して、どの退職金制度を導入するか決めてください。



一つ言えることは、どちらも信頼できる制度です。

  • はぐくみ基金(DB)・・・毎月の掛け金を大手保険会社が国債などで運用する
  • 企業型DC・・・毎月の掛け金を自分で商品を選択して運用する

元本が保証されるのが、はぐくみ基金。運用成果が期待できるのは、企業型DCです。企業型DCは、将来の年金原資となる部分は確定していませんが、投資教育を通して学べば、その部分は拭えると思います。



この記事では、福祉はぐくみ企業年金基金は、企業型DCより優秀な退職金制度なのかについて書きました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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参考URL:https://hagukumikikin.jp/(福祉はぐくみ企業年金基金HP)